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遠くにありて思ふもの

 月のない夜だった。帰省した地元で、同級生たちと飲み会をした帰り道。夜に洗われたような風が、火照った身体に気持ちいい。

虫の鳴き声しかしないような静けさに、不意に踏切の警報音が響いた。ゆっくりと遮断機が下りて、私もその目の前で立ち止まる。暗闇の中に、街灯に照らされた踏切だけがぽっかり浮かんでいる。

やがて、2つの明かりがともり、それが大きくなり、すっと光る線路を作る。ローカル線の上り電車、2両編成のほとんど空っぽの車内に、光だけを満載にして。ゆっくり、ゆっくりと進んでいく。踏切の前を通る電車は、一瞬眩しいくらいに私を照らして、そうしてまた暗闇を拓いて去ってゆく。ほんの少しの町の明りが星に見えて、さながら銀河鉄道のようだ。

遮断機が上がり、一層暗くなった道を歩きながら、夢をみているような気分だった。途中下車の銀河鉄道。あの悠然とした姿は、私の急いた体内時計を直した。

東京での日常は、追われるように過ぎ、それは日々加速して、回復していないうちにまた追い立てられて。昔より時間が過ぎるのが早くて、本当に早くて、恐怖を覚える。自分で選んだ生活なのに、傷つけられているような気分になっていた。

それを溶かすような、光の電車。かつての日常を運ぶ存在。私の離れた町はたった2両さえ満たさない、小さな生活を湛えて息をしている。あせらなくてもいい、時間の流れはどこでも同じで、私をきちんと成長させてきた。

時の流れがはやくなったら、また帰ってこよう。私はここで、直ることができる。

やさしい光を満載にしたあの電車が、私の未来をも照らしてくれるような予感さえしてくる。勘違いだっていい、何かが支えてくれると思うから頑張れるのだ。

顔を上げると暗さに慣れた目が、満天の星空を見せた。