芸術作品に泊まる

1月の一番寒いころに休暇を取ることを決めてから

温泉に行きたい、と思い

ならば、と銀山温泉*1にした。

 

銀山温泉の最寄り駅には山形新幹線で行ける。

でも、せっかく山形方面に行くならば仙山線の山寺を見たい…と思い

仙台経由で向かうことにした。

仙台の都会の様相から徐々に山になり、遠くに海が見え

それから雪山へと移り変わっていく仙山線が好きだ。

ゆっくりと気持ちが切り替わって、自然の美しさがより映える。

 

宿が最寄り駅に迎えを手配してくれていて、途中の白鳥のいる水辺でエサやりをさせてくれた。

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銀山温泉に着いたのは16時頃。

ちょうど日が陰り、ガス灯がともる直前。

 

今回泊まったのは銀山温泉 藤屋。隈研吾設計の旅館だ。

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非日常をコンセプトに作られた内装は、一切の表示がない。

部屋番号も、お風呂の場所も、カウンターさえも。

ウェルカムドリンクの後に、5つある貸切温泉の場所を教えてもらい、部屋に向かう。

隠し扉のような目立たない扉を開けば、シンプルな作りの部屋。

 

壁や仕切り扉などに、和紙が使われていて

間接照明と共に柔らかな光を作る。

部屋の一番奥には、温泉街を一望できる大きな窓。

聞けば、温泉街に面したところに部屋があるのは藤屋だけだという。

夕・朝食はお部屋食なので、食事時の誰もいない街並みを一望できたのは素晴らしかった。

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表示のない内装は、一旦知ってしまえば快適だった。

間接照明で照らされた館内は、余計な情報がない。

貸切温泉もシンプルなシステムで運用されていて、扉の前に草履がなければ入っていいという気軽なもの。

しかも8部屋しかない中、5つも温泉があるので待つことはほとんどない。

部屋の中も、お手洗い、クローゼットの扉が目立たないので、使うとき以外に主張してこないというのは、こんなにも心地よいものかと思った。

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泊まった日の夜は-20℃にまでなったという。

今季一番の冷え込みとのこと。

そうとも知らず、朝に意気揚々と入った半露天風呂では

カランが凍り、シャワーも凍り、手桶までもが凍って張り付いていた。

でも、源泉熱めの温泉は適温。

手桶をひっぺがし、かけ湯をして入れば極楽。

窓も凍っていたので、浴槽から湯をかけて溶かせば、青空とこんもりとした雪のコントラストが見える。

でも、またすぐに凍ってゆく。

窓枠の端のほうから、水の薄かった部分から広がって行く結晶。

自然のライブドローイング。

目に見えて凍ってゆく様は、神秘的で美しかった。

 

館内のいたる所で使われているステンドグラスは、ごく自然な歪みで模様が描かれている。

玄関アプローチにも水が張ってあり、朝には様々な模様の氷ができる。

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こうやって自然に溶け込む美しさも仕込んでいるのだろう。

 

寒さを芸術に変えるこの街と宿の、他の季節も知りたい。

 

 

*1:昨年は渋温泉に行ってきたから、個人的に”鄙びた温泉街”のブームが来ている